パッロの声はやさしく、強引に取り上げることはしない。
 リュミの意志を尊重してくれるその姿勢に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

(パッロって、やさしいな……)

 頬がほんのりと赤くなるのを感じながら、リュミは小さく笑った。

 *

「このあたりかな……」

 森の奥、少し開けたひだまりの中で、リュミを足元の草むらをじっと見つめる。
 両手でカゴをしっかりと抱きかかえ、息を殺すように静かにかがみ込む。

 エルドに教わった薬草の特徴を、頭の中で何度も繰り返す。
 細長く、やわらかい葉。小さくて白い五弁の花。そして、ほのかな甘い香り。

 目の前に咲いている花は、その説明とよく似ている。
 けれど、決めきれない。

(合ってるのかな……リュミ、自信、ないかも……)

「パッロ……これで合ってる?」

 不安そうに顔を上げて声をかけると、隣にいたパッロがゆっくりと顔を近づけてにおいを嗅ぐ。

「……ああ。間違ってないよ」

 その落ち着いた低い声に、リュミの緊張がふわりとほどける。

(よかった……まちがってなかった)

「大丈夫、リュミはよく見てる。摘んでごらん」

「……うん」