パッロはエルドをじっと見つめる。
 視線には責めるような色が混じっていたが、やがて彼はなにかを決意したように一歩、前に出た。

「……好きなだけ観察してもいい。質問にもできる限り答える。だから……リュミを、ここに置いてやってくれ」

 ついさっきまで不満そうにうなっていたとは思えないほど、真剣で、強い声音だった。
 リュミの瞳から、また涙がこぼれる。今度は止まることを知らない。

 パッロの申し出に、エルドは目を少し見開いた。
 だが、すぐに顔をしかめ、口元にわずかな皮肉を浮かべる。

「……なら働け。居場所がほしいなら、それなりの理由を作るんだな」

(居場所……?)

 偏屈そうな響き。だけどその奥に、ほんの少しだけ、情のようなものがにじんでいる気がする。

 もしかして、エルドはリュミとパッロの内緒話を聞いていたのだろうか?
 だとすれば、なんて遠回しな誘いだろう。

 リュミが涙を拭おうとまばたきすると、ぽろぽろと涙が落ちていく。
 涙でにじんだ視界の中、リュミはエルドをまっすぐ見つめる。

「……うん、わかった」

「薬草を採ってこい。ここに居たいなら、それくらいはできるだろう」

 リュミはうんうんと力強く頷いた。
 不安もある。でも、パッロと一緒なら――きっと、大丈夫。
 リュミの気持ちに応えるように、パッロは尻尾をぱたぱたと振った。

 そんなふたりを、エルドはじっと見つめる。
 そしてほんのわずか、あるかないかの淡い笑みが、彼の口元に浮かんだ。
 笑っているような、そうでないような……それでもリュミには、はっきりと笑顔に見える。
 だからこそ――リュミの顔にはパァッと明るい笑みが咲いたのだった。