そんなふたりの様子を、エルドは黙って見ていた。
 そのまなざしには、苛立ちとも、興味ともつかないものが浮かんでいる。

「……ふむ。なるほど……ワシのやったことは、無駄だったかもしれん……。いや、だが、興味深いのは確かだ」

 そのつぶやきに、リュミは小さく首をかしげる。

(無駄って……なんのこと?)

 昨日の遊びのこと? それとも、パッロのこと? もしかしたら、全然別の話かもしれない。
 リュミには、エルドの言葉の意味がよくわからない。

 しばらくして、エルドはふっと肩を竦め、大きく息を吐いた。
 その顔には、どこか諦めのような、割り切れなさのような、複雑な色が浮かんでいる。
 いつもよりも少しだけ、疲れて見えた。

「冒険は終わりだ。もう、そろそろ家へ帰れ」

 あまりにも突然の言葉だった。

「……え?」

 リュミはその場に立ち尽くし、状況が飲み込めずにまばたきを繰り返す。
 思わずスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

 言葉の意味は理解できても、それが現実だと受け入れるにはあまりにも急すぎる。

「……帰る家なんてないもん……」

「リュミ……」

 パッロがそっと名前を呼ぶ。
 リュミの顎から、ぽたり、ぽたりと涙がこぼれ落ちていく。