「人の言葉を話せるのは前からか? それとも、その姿になってからか?」

 パッロは一瞬、エルドの目をじっと見つめたあと、淡々と答える。

「前から理解はしていた。しゃべれるようになったのは、この姿になってからだ」

 パッロの返答に、エルドは眉間に深いしわを刻み、考えるように手を顎に当てた。
 そして、なにかに引っかかるような顔つきで、再びつぶやく。

「天吼の白獣がこれほど人に懐くとは……いや、これは従順というよりも……」

「……もういいか?」

 パッロの声には、わずかに苛立ちが混じっていた。
 だがエルドはそれに構わず、自分の思考の海へと沈んでいく。

「ふむ……観察で得られる情報には、限りがあるかもしれん……」

 そう口にしたときには、もはやパッロの存在すら視界から外れているようだった。

「……今日に限って、なぜこんなに詮索してくる?」

 低くうなるような声とともに、パッロは地面を強く踏み鳴らす。
 それを見て、リュミは慌てて駆け寄り、パッロの背中にそっと手を当てた。

「パッロ、落ち着いて」

「だが……」

「大丈夫、リュミがいるよ」

 リュミは小さな声でそう言い、パッロの背を撫でる。
 そのしぐさはまるで、今にも暴れそうになっている風を包み込むかのよう。
 パッロはゆっくりと息を吐き、少しずつ落ち着きを取り戻していく。