照れたように笑いながら、パッロの頭をそっと撫でる。
 パッロがそばにいるというだけで、森がこんなにもやさしく感じるなんて、思ってもみなかった。

 ふと、視線の先に水たまりを見つける。
 リュミはそこにしゃがみ込み、顔を近づけて、水のにおいや空気のにおいを吸い込む。
 ひんやりとした空気が肺に届き、体の奥から少しずつ力が戻ってくるような、不思議な感覚に包まれる。

「なるほど、面白い……魔物が人間を守る、か。使役……とも違うようだな……」

 不意に、茂みの奥からぼそぼそと声が聞こえてきた。

 この独り言のような観察コメントも、これで二日目。
 最初こそ背筋がぞっとするほど不気味だったが、今は少し慣れてきて、むしろ呆れてしまうほどだ。

 リュミは困ったように眉をひそめ、パッロと視線を交わす。

「パッロ」

「大丈夫だ、リュミのそばには近づけない」

 凜としたその言葉は、まるで誓いのようにまっすぐだった。高潔な騎士が、姫を守ると誓うその姿のように。
 リュミは安心して頷く。

「パッロがいてくれるおかげで、リュミ、なんにもこわくないよ。ありがとう、守ってくれて」

 パッロは体をふわりと震わせて、リュミの手に体を寄せる。
 そのぬくもりにどれほど勇気づけられているか、伝えられたらいいのに。上手に言葉を選べなくて、もどかしい。

(パッロといっしょなら、どんなことだってきっとだいじょうぶ)

 やがて、二人は少し開けた場所に出た。
 まるで世界が広がったようで、リュミの目に涙がにじみそうになる。
 胸いっぱいに空気を吸い込んで、リュミはそっとつぶやく。