「うん、これならだいじょうぶそう。行こうか、パッロ」

 無理は禁物だけれど、短い散歩くらいなら問題なさそうだ。
 パッロは頼もしく頷き、自然とリュミの横に寄り添って歩き出す。

 扉を開けて外へ出ると、森のにおいがふわりと鼻先を(かす)めた。
 木々の葉から落ちる朝露のにおい、土の湿ったにおい、風に混じったかすかな花の香り……。それらが複雑に混ざり合って、森特有の空気を作っている。

 地面には、木々の間をすり抜けた日差しが斑模様を描いている。
 チラチラと揺れるその模様は、まるで森が生きて呼吸しているかのよう。

 昨日は、あんなに怖かった森。けれど今は、驚くほど穏やかに見える。
 きっと、それは隣にいるパッロのおかげだ。

「……パッロ、ありがとう……ほんとに」

 リュミがつぶやくと、パッロは誇らしげに小さく鼻を鳴らした。
 その音が、なんとも心地良く胸に響く。

(迷惑かけちゃったのに、やさしい……)

 森の中を歩くうちに、リュミの中にあった恐怖心が、少しずつ薄れていくのを感じた。
 足元に広がる枯れ葉のざくざくという音、時折聞こえる小鳥のさえずり、木々の香り――どれもがまるで初めて出会う世界のようで、ワクワクする。

「パッロ、見て……これ、きれいだよ」

 リュミが足を止めて、木漏れ日に照らされた小さな花に指を伸ばす。
 白い花びらが光を浴びてほのかに透け、宝石のようにキラキラしている。

「リュミみたいだ」

「そうかな? リュミ、こんなにいいにおいじゃないと思うよ」