「ふむ……大きめの愛玩動物のように見えるが……いや、鑑定では天吼の白獣となっている。これはただの動物ではない。力を使い切ってこの姿になったのか? 否、そうではない……固有スキルか? ふむ、なるほど……」

 男は、止まることなく考察を続けている。
 その声音には、異様な熱量があった。

 不気味だ。
 だけど、リュミの中に、それ以上に大きな好奇心が芽生える。

「ふわふわ……?」

 リュミの言葉に男はピタリと動きを止め、驚きとも納得ともつかない表情を浮かべる。

「そうか……君が発動させたのか。スキル《ふわふわ》……前例のない能力だ。天吼の白獣が、なぜこうもやわらかく、温和な性質へと変化したのか……これは一考の余地がある……」

 リュミはしばし考え込む。
 けれど、なにをどう考えても理由なんてわかるはずがない。
 無理もない。リュミはまだ六歳。スキルの発動条件も仕組みも、なにも理解できていない。

「リュミ……わかんない。でも、パッロ……ふわふわ」

 パッロの背に置いた手が、ほんの少し力む。
 慌てて力を緩めるリュミだが、その顔は困りきっていた。

 男はさらに距離を縮め、探るような視線でリュミを見つめてくる。

「では、君はどのタイミングでそのスキルを発動させた? 明確に覚えているか?」

 またしても、リュミは首をかしげる。

 その問いに、明確な答えが出せない。
 あの時──天吼の白獣を前にしたときは襲われると思ったけれど、改めて思い返してみると、襲いに来たのではないような気がする。
 リュミの存在に惹かれてやってきた──そんな気がする。