やわらかな風が、森の木々の間をすっと抜けていく。
緑に染まった若葉の香りが、その風に乗ってリュミのもとへと運ばれてきた。
水の流れる音が、耳元でかすかに響く。小鳥たちが木の枝で楽しそうにさえずっている。
枝先に咲いた小さな鼻が、風に揺れるたびに日の光を浴びてキラキラと瞬いていた。
その穏やかさは、まるで――昨日あった出来事なんて、最初からなかったかのよう。
リュミは深く息を吸いながら、草の上にそっと腰を下ろした。
森の空気はやさしくて、ほんのり湿った土のにおいと、日差しのあたたかさを含んでいる。
でも、胸の奥には、まだほんの少しだけ冷たいものが残っている気がした。
それはたぶん、昨日までいた神殿の記憶。
石の冷たさと、香の混ざった独特の空気。その残り香が、かすかにリュミの中にまだ漂っている。
だけど、それをゆっくりと押し流すように、森のにおいが体の奥に満ちてくる。
土と草のにおい。葉のざわめき。どこか懐かしいぬくもり。
「……うん。やっぱり、ここがいい」
そう口にした瞬間、不思議と肩の力がふっと抜けた。
森の風が、そっとリュミの頬を撫でていく。
まるで、森そのものが「おかえり」とささやいてくれたようだった。
リュミは小さく微笑んで、空を仰いだ。
青空の向こうで、太陽の光が揺れている。昨日の恐怖も、胸の痛みも、少しずつ遠ざかっていく。
怖かった。本当に、怖かった。泣き出しそうだった。
でも、こうして森に帰ってこられた。それだけで、今はもう、十分だ。
「ありがとう。……みんな、助けに来てくれて」
小さな声でそうつぶやいた、そのとき。
緑に染まった若葉の香りが、その風に乗ってリュミのもとへと運ばれてきた。
水の流れる音が、耳元でかすかに響く。小鳥たちが木の枝で楽しそうにさえずっている。
枝先に咲いた小さな鼻が、風に揺れるたびに日の光を浴びてキラキラと瞬いていた。
その穏やかさは、まるで――昨日あった出来事なんて、最初からなかったかのよう。
リュミは深く息を吸いながら、草の上にそっと腰を下ろした。
森の空気はやさしくて、ほんのり湿った土のにおいと、日差しのあたたかさを含んでいる。
でも、胸の奥には、まだほんの少しだけ冷たいものが残っている気がした。
それはたぶん、昨日までいた神殿の記憶。
石の冷たさと、香の混ざった独特の空気。その残り香が、かすかにリュミの中にまだ漂っている。
だけど、それをゆっくりと押し流すように、森のにおいが体の奥に満ちてくる。
土と草のにおい。葉のざわめき。どこか懐かしいぬくもり。
「……うん。やっぱり、ここがいい」
そう口にした瞬間、不思議と肩の力がふっと抜けた。
森の風が、そっとリュミの頬を撫でていく。
まるで、森そのものが「おかえり」とささやいてくれたようだった。
リュミは小さく微笑んで、空を仰いだ。
青空の向こうで、太陽の光が揺れている。昨日の恐怖も、胸の痛みも、少しずつ遠ざかっていく。
怖かった。本当に、怖かった。泣き出しそうだった。
でも、こうして森に帰ってこられた。それだけで、今はもう、十分だ。
「ありがとう。……みんな、助けに来てくれて」
小さな声でそうつぶやいた、そのとき。



