リュミはそっと手を差し出した。
 恐怖よりも、深く安心できるなにかが、胸の奥から込み上げてくる。

 天吼の白獣はふわふわの尻尾を揺らしながら、静かに近づいてきた。
 その瞳に映るのは、敵意でも攻撃性でもなく、純粋な心配と安堵。

「無事か」

 低く、けれど甘い響きのある声が、魔物から発せられる。
 不思議とリュミは、驚かなかった。まるで、最初からわかっていたかのように。

「魔物さん。リュミ、大丈夫だよ。ごめんね……心配かけて。追いかけてきてくれたんだね」

「……無事なら、それでいいんだ」

 天吼の白獣は尻尾をやさしく揺らし、リュミのすぐそばまで来る。
 リュミはおそるおそる、そのぬくもりに向かって手を伸ばした──。