「退けっ! 女神の聖域を穢すな――!」
神官が杖をふるう。
光が走るが、蝶たちのきらめく羽にその光はすぐに呑み込まれた。
風が巻き、光が舞う。
森の息吹が、神殿の中を吹き抜けていくようだった。
エルドが一歩前に出て、リュミの前に立つ。
「リュミ、立てるか?」
「うん……でも、ちょっとだけ、こわいの……」
「大丈夫だ」
エルドの声は静かで、だけど、とてもあたたかい。
「もうおまえをひとりにはしない。帰ろう」
その言葉を聞いた瞬間、リュミの胸の奥でなにかがふわっとほどけた。
かたくなっていた心が、ゆっくりとあたたかく溶けていく。
パッロがリュミを背に乗せ、ムスティが肩に舞い降りる。
リンコは外の様子を見て、大きく羽を広げた。
「ったく……空気がじめじめしてて気持ち悪い! いっそ、燃やして入れ替えてやるわ!」
リンコの声に合わせ、赤い羽が一閃する。
炎のように見える赤が一帯をあたため、舞い上がった蝶の鱗粉は火にも負けず、逆に光を帯びて宙にきらめく。リュミの頬を濡らしていた涙は、やさしい風にさらわれて消えていった。



