「……いや。この子は魔物じゃないもん。だから……ふわふわ、できないの」
「なにを言っているのです。あなたの力は、すべてのものを導く。足りぬのは、祈りの心です」
神官はやさしげな声のまま、冷たい手でリュミの頭に触れ、ぐいっと押さえつけた。
「さあ、女神のために祈りなさい」
「やめてっ! ちがうのっ、そんなの、ぜったいちがうの!」
リュミの叫びが、石の壁に反響する。
神官の眉がピクリと動いた。
「恐れは罪です。あなたは選ばれた子なのですよ」
「リュミは……リュミの力は、森のためにあるんだもん! ねぇ、ちがうよっ!」
その瞬間。
地面が低くうなり、地鳴りが起きた。
ゴォォォォン!
白い重たい石の扉が、まるで風船のように吹き飛んだ。
外から吹きつけた冷たい風が、怒りのように祭具をなぎ倒していく。
壁に掛けられていたタペストリーが大きく舞い、空気が一変する。
その粉塵の向こう側に、ひときわ大きな影が立っていた。
嵐を思わせる荒々しい毛並み、燃えるような金の瞳。
パッロだった。
「どきやがれ、このアホ神官どもォォォッ!!」



