言葉が、繰り返される。重ねられる。
 祈れ、祈れ、と……。

 リュミはぎゅっと目を閉じた。

(やだ……こわい……ここ、もう、いや……)

 声にならない叫びが、胸の奥で渦を巻く。

(……パッロ……リンコ……エルド……たすけて……リュミ、ここにいるよ……)

 そのときだった。
 手首に、細い糸の感触が走った。
 冷たいようで、でもどこかぬくもりを感じる。

(ムスティの糸……。ムスティ?)

 心の中でそっと呼ぶと、糸がかすかに震えた。

 大丈夫、見てる。
 そんなふうに、励まされている気がした。

 神官たちの声が、遠くに響いている。

「もっと強く、祈りを――!」

 でも、リュミの心には、森の風が戻ってきていた。
 木々のそよぎ、やわらかな草のにおい、鳥たちの歌う声。

(リュミ、負けない……森に、帰る……)

 その一途な願いが胸の奥で光になり、リュミの体の中心から、ふわりとあたたかな輝きが生まれる。
 光はムスティの糸を伝って神殿の外へ――静かに、けれど力強く、流れていった。