「さあ、こちらへ」

 やさしいけれど決して逆らえない声に導かれ、リュミは神官の手に引かれて歩き出した。
 長くて静かな回廊。両側の壁には、女神さまの絵がずらりと並んでいる。

 一枚一枚、描かれている場面は違うはずなのに、どの女神さまも同じ顔。
 同じ笑みをたたえて、同じようにやさしく微笑んでいる。

 でも――そのやさしさが、どうしようもなく冷たく感じた。

 リュミの足音が石の床に響くたびに、神官たちがぴたりと立ち止まり、頭を下げる。
 そのたびに、まるで空気が凍るように張り詰めていく。

 整いすぎた空間に、リュミの小さな足音だけが浮いて聞こえた。

「……大神殿に行くんじゃなかったの?」

 不安そうに尋ねると、隣の神官が微笑みながら頷いた。

「ええ、行きますよ。でも、その前に立ち寄るべき場所があるのです」

 やがて、一行は白くて大きな扉の前に立ち止まった。
 神官が手をかざすと、鈍い音を立てて鍵がはずれ、扉が重たく開いていく。

 中に広がっていたのは――広々とした祭具庫だった。
 天井の高い梁には、何枚もの封印札が貼られている。
 水晶の灯りがかすかにまたたいて、淡い光を放っていた。

 床には銀色の紋章が刻まれ、祈祷に使う器具が美しく整列している。
 ひとつとして乱れがなく、まるで誰の手も触れていないような完璧な静けさ。
 なぜだろう。その完璧さが、息苦しく感じる。