馬車がゆっくりと止まった。
かすかに揺れる感覚のあと、外から扉が開かれる。
リュミは躊躇いがちに足を動かし、小さな靴で石畳に降り立った。
視線を上げた瞬間――そこに広がる景色に、心臓がひとつ強く跳ねる。
すべてが白い。壁も柱も、階段も塔も、なにもかもが、どこまでも白い。
遠くから見ると美しいのに、近づくほどに、その白はただ冷たく、無言でリュミを圧迫してくる。
そして、気づいた。
(……ここ……)
この場所を、リュミは知っている。
ここは――リュミの運命が変わった場所。
スキル《ふわふわ》を授けられた、人生の分岐点。
あの日のリュミは、緊張しながらもどこか浮き立つ気持ちで見上げていた。
けれど今、こうしてもう一度立ってみると……全然違って見える。
記憶よりもずっと高く、無機質で冷たく、近づきがたい。
完璧すぎるほど整ったその姿が、かえって異質だ。
(……やっぱり、こわい)
以前は見えていなかったものが、今は見える。
気づかなかった重さ、空気の張り詰めた感じ、白の奥に潜む感情のない静けさ。
(……フォルステアの、おうちみたい)
言葉にできない不安が押し寄せてきて、胸がぎゅっと苦しくなる。
美しくて、完璧な世界。だけど、ひとつの汚れも許されなさそうで、足を踏み入れるのが怖い。
かすかに揺れる感覚のあと、外から扉が開かれる。
リュミは躊躇いがちに足を動かし、小さな靴で石畳に降り立った。
視線を上げた瞬間――そこに広がる景色に、心臓がひとつ強く跳ねる。
すべてが白い。壁も柱も、階段も塔も、なにもかもが、どこまでも白い。
遠くから見ると美しいのに、近づくほどに、その白はただ冷たく、無言でリュミを圧迫してくる。
そして、気づいた。
(……ここ……)
この場所を、リュミは知っている。
ここは――リュミの運命が変わった場所。
スキル《ふわふわ》を授けられた、人生の分岐点。
あの日のリュミは、緊張しながらもどこか浮き立つ気持ちで見上げていた。
けれど今、こうしてもう一度立ってみると……全然違って見える。
記憶よりもずっと高く、無機質で冷たく、近づきがたい。
完璧すぎるほど整ったその姿が、かえって異質だ。
(……やっぱり、こわい)
以前は見えていなかったものが、今は見える。
気づかなかった重さ、空気の張り詰めた感じ、白の奥に潜む感情のない静けさ。
(……フォルステアの、おうちみたい)
言葉にできない不安が押し寄せてきて、胸がぎゅっと苦しくなる。
美しくて、完璧な世界。だけど、ひとつの汚れも許されなさそうで、足を踏み入れるのが怖い。



