一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
 祝詞のように厳かに告げられたその言葉だけが、ぽつんと浮く。

 《ふわふわ》

 耳にしたことのないスキル。
 意味も、効果も、想像すらつかない。
 けれど、妙に響きだけはやさしくて、奇妙で、そして……子どもっぽい。

 父の声が、奥の一段高い場所から落ちてきた。
 重く、冷たく、期待が剥がれ落ちたような響き。

「ふわ、ふわ……?」

 リュミの父の声が、奥の一段高い場所から静かに落ちてきた。
 その響きには、重たく冷たい失望が宿っている。
 希望が崩れ落ちる音がする。

(そんな……お菓子の名前みたいな……リュミ、聞き間違えた……?)

 まるで悪い夢でも見ているかのような気分だ。
 けれど夢ならば、誰かが手を取ってくれるはず。
 それなのに、今この瞬間、誰もが遠ざかるような視線でリュミを見ていた。

「……ふわふわ、とは……?」

 父が低い声で問う。
 その声音は、リュミが震えるほど鋭い。
 神官は無表情のまま、少しだけ眉を寄せて、言葉を選びながら続けた。

「《ふわふわ》は、精神影響系のスキルとして分類されますが、詳細は不明。対象、効果、範囲、発動条件……すべて未確定です。記録にも前例がなく、魔力量も最低値に近い数値でした。申し訳ありませんが……実用性は、極めて乏しいと考えられます」