馬車の隙間から、ふわりと揺れる金の糸が見えた。
 まるで空を舞う綿毛のようにやさしく、けれどたしかにそこにある。

 胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
 涙が今にもこぼれそうになって、リュミは唇をきゅっと噛んだ。

(ムスティ……ありがとう。リュミ、がんばるね。みんなが来るまで、ちゃんと……まってるから)

 両手を胸にあて、深く息を吸う。

(女神さま。リュミ、もう泣かないよ。ちゃんと、森に帰るって決めたの。ちゃんと、ただいまって言うんだ)

 誓った瞬間、リュミの胸の奥がやわらかく光った。

 誰にも見えない小さな光。
 リュミのまわりをそっと包み、やがて金の糸に溶け込んでいく。「ここにいるよ」という声と一緒に、森の仲間たちのもとへ――。

 馬車はまだ、停まらない。道は遠く、先は見えない。
 けれど、リュミの瞳には希望の光が灯っていた。

(リュミ、負けない。かならず、帰る。森のみんなのところに……)

 風に揺れる馬車の窓辺。
 その隅に、ムスティの小さな影が、今もじっと留まっていた。