そのとき、神官の手に白い香炉が現れた。
そこから、淡い煙がふわりと立ちのぼる。
「……なに、これ……あたま……ふわふわ……」
リュミの視界が揺らぎ、足元が崩れる。
眠気が波のように押し寄せ、世界が霞んでいく。
「心配はいりません。すべては皆のため。あなたも、きっと理解してくださいます」
目の前が暗くなる。
リュミは力を失い、その場に倒れ込む。
「……ムスティ……にげて……」
それが、リュミの残した最後の言葉だった。
*
そのころ、エルドは村長の家にいた。
村長から話を聞いていたが、どこか上の空だった。
リュミのことが、ずっと気になっていた。
エルドは腕を組みながら、ひとつため息を吐く。
(あのさんにんが一緒にいるんだ。心配ない)
そう、自分に言い聞かせていた。
けれど――。



