魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


「すぐ戻るから。だから、いい子で待っててね」

 リュミはやさしく微笑んで、男の子のあとを追って広場を飛び出した。

 昼下がりの日差しはまだまぶしく、空は高く澄み渡っていた。
 鳥の声が、ふと止まる。
 そのわずかな静けさに気づくより早く、リュミの足は森の入り口にたどり着いていた。

 地面に片膝をつき、まるで祈るように俯いていた男の姿。
 身にまとう白い外套と、胸元にあるあの紋章には――見覚えがある。

(昨日の、神官さま……)

 彼の身に、なにがあったというのか。

「だ、だいじょうぶ? ねぇ、神官さま……ねてるの?」

 リュミは戸惑いながらも神官に駆け寄り、そっと肩に手を伸ばす。
 すると、神官がゆっくりと顔を上げた。

 神官の目が、リュミをまっすぐに見つめる。まるで、ずっと彼女が来るのを待っていたかのように。
 そして、その唇にやわらかな笑みが浮かんだ。

「……またお会いできて嬉しいですよ、お嬢さん」

 背中を、ぞわりと冷たいものが這い上がる。
 リュミの心が、警鐘を鳴らした。

「どうしてここにいるの……? 大神殿に帰ったはずじゃ……」

「あなたの力が必要なのです。森に閉じ込めておくには、あまりに惜しい」

 その声は、静かでやさしい。まるで祈るように穏やかだ。
 けれどその瞳の奥には、氷のような冷たい光が潜んでいる。