「……ひゃっ」

 再び、結界が砕ける音。
 リュミは肩を竦めて、体を強張らせる。

 魔物が、また結界を壊したのだ。
 何枚も張られているはずの結界が、次々と打ち砕かれていく。
 このままでは、時間の問題かもしれない。

「あの魔獣……天吼の白獣の狙いは君だ」

 男の声は静かだったが、どこかで諦めのような響きも含んでいた。
 リュミは、再び耳を澄ませる。

 うなり声に混じって、低く──しかしたしかに、呼びかけるような声が聞こえる。

 それは、ただの咆哮ではなかった。
 まるで……誰かを心配しているような、苦しんでいるような声。

(……リュミのこと……心配してる……?)

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。
 どうしてだろう、あの声は怖くない。むしろ、離れてしまうほうが、ずっと怖い。

 体の痛みを無視して、リュミはベッドから身を起こした。
 ふらつく体を必死で支えながら、足を床におろす。
 膝が崩れそうになるのを、壁に手をついてなんとか堪える。

 冷たい床の感触が、足先から這い上がってくる。
 けれど、今はそれすらも気にならない。

(行かなきゃ……)