リュミは少し俯き、両手をぎゅっと握りしめた。
 視界の端で、小さな魔物と小動物たちが不安そうに顔をのぞかせている。
 春風がそっと髪を揺らした。

「……ごめんなさい。リュミは行けません」

「理由を、聞いても?」

「ここが好きだから。森のみんなと離れたくないんです」

 その答えに、神官の瞳がかすかに揺れた。
 けれどすぐに、それを覆い隠すように微笑みを整える。

「そうですか。……では、近いうちに改めてお伺いしましょう」

 そう言い残し、神官は森を去っていった。

 風が通り抜け、鳥のさえずりが戻ってくる。
 リュミはそっと息を吐き、肩の力を抜いた。

「……怖くなかったのか?」

 パッロが低く尋ねる。

「うん、こわかった。でも……逃げたくなかったの。ちゃんと、みんなの前で、言いたかったから」

 リンコがそっぽを向いて、「……生意気になったじゃない」とつぶやく。
 ムスティは短く、「……強く、なった」とつぶやいた。

 エルドはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑う。

「言うようになったな。……ワシは、誇らしいぞ」

「えへへ……ありがとう、エルドさん」

 春の風がふわりと吹き抜け、リュミの髪を揺らす。
 握りしめた手は、まだ小さく震えていた。