「えっと……ごめんなさい?」
「謝るな。別に悪いことではない。隠れて瘴気に狂うより、ずっと、ずっといいことだ」
リュミは小さく笑い、パッロも安心したように目を細める。
リンコは照れ隠しのように小さなため息を吐いた。
そんなやわらかな時間を、硬い靴音が切り裂く。
乾いた音が、春風に紛れて近づいてくる。
リュミたちが振り返ると、木々の間から見慣れない人影が現れた。
白い外套に銀糸の刺繍。胸元には女神の大樹が描かれた神殿の紋章がきらめいている。
紋章の枝の多さから見て、彼はおそらく中級神官だろう。
凜とした姿勢で立つ彼は、低く、よく通る声で言った。
「ここに、リュミという娘がいると聞きました」
その声には、どこか祈りにも似た静けさがあった。
エルドが一歩前に出て、杖を軽く打ち鳴らす。
「なんの用だ」
「脅かすつもりはありません。ただ、確認をしたいだけです」
神官のまなざしがリュミに向けられる。
その目は、やさしさも厳しさも持たず、ただ冷たく透き通っていた。
まるで目の前の存在を測るような、観察者のまなざし。
「魔物を使役する少女の噂が王都に届いていましてね。大神殿では、その力が女神の祝福と関わるものではないかと見ています」



