「でも……《ふわふわ》は森を守るために女神さまがくれたものだもん。リュミは、そのために使いたい」

 その言葉に、エルドはゆっくりと頷いた。

「ああ、ワシもそう思う……だがな、リュミ。人の世には、そう思わぬ者もいる」

 その声には、年輪を重ねた者だけが知る現実の重みがあった。

「権力を握る者たちは、森よりも国を見ている。おまえの力がどれほど神聖でも……利用できるなら、森を犠牲にしてでも奪いに来るだろう」

 リュミは息を呑んだ。
 頭の中に浮かぶのは、旅人の穏やかな微笑み。その奥に、見えない思惑の影がちらりと見えた気がした。

「そんなの、いや……リュミは、森を、みんなを守りたいのに……」

 震える声に応えるように、パッロがそっと寄り添い、彼女の背中を大きな尻尾でやさしく叩く。

「大丈夫、オレたちがいる。リュミの力を奪おうとするやつがいたら、オレが全部、追い払ってやる」

「そ、そうよ! リュミはわたしたちの、森の大事な子なんだから!」

 リンコがぷいっと顔を背けながら言うが、その羽は落ち着かず、彼女なりの不安を隠せていない。

「だいたい……ちょっと、泣かないでよリュミ! なによぉ、こっちまで泣きたくなるでしょ⁉」

 羽をバタバタさせながら、リンコが必死で誤魔化す。
 ムスティは黙って編みかけのショールをきゅっと握りしめ、そっと頷いた。

 リュミは目を伏せて、涙を拭う。