「ここが……どうかされたのですか?」

 エルドの問いに、旅人は淡々と答える。

「旅の途中で聞いたのです。森の中に、特別なスキルを授かった少女がいると。森の獣をなだめ、災いを鎮める――そんな奇跡のような話をね」

 リュミは息を呑んだ。思わずパッロの背中に身を隠すように寄る。

「その話、どこで……?」

「村でも、街道でも、噂は広がっています。王都にある大神殿の者たちも、どうやらその力に目をつけているようですよ」

 空気がすっと冷たくなったような気がする。
 旅人は微笑んだままだけれど、その瞳の奥にある光は、まるで真実を測ろうとしているようだった。

「そうですか。しかし、まぁ……しょせん噂は噂ですからな」

 エルドの言葉に旅人は微笑み、静かに頷いた。

「噂は、光だけでなく影も連れてくる。どうかご自愛を」

 そう言い残して、旅人は静かに立ち上がり、荷物を背負い直して歩き去っていった。

 風が吹き、木々を揺らす。
 その揺れがまるでなにかの予兆のようで、リュミは胸の奥がじんわりと冷たくなるのを感じた。

 エルドがそっと肩に手を置いた。

「……やはり、おまえの力は、森だけに閉じ込めておけないかもしれない」

 リュミは下唇を噛む。