そこから、ひとりの旅人が姿を見せた。
 年配の男性で、背中に大きな荷物を背負い、手には使い込まれた杖。長い旅の疲れを感じさせる服装だが、その表情には不思議な余裕と静けさがある。

「こんにちは。いい天気ですね」

 彼は足元の草花を踏まないように、ゆっくりと気を配りながらこちらへ歩いてくる。
 その一歩一歩が、まるで祈るように丁寧だった。

 リュミは驚きながらも、体を起こしてぺこりとお辞儀する。

「こんにちは」

 その声に、旅人はにこりと笑って、小さく会釈した。

「失礼ながら……少し、お昼を分けていただけませんか?」

 リュミは迷うことなく、にっこりと頷く。

「もちろんです。いっしょにどうぞ」

 旅人はゆっくりと腰を下ろし、布の端に座った。
 その様子を見て、パッロたちはすぐに立ち上がる。
 旅人の荷物の中には、巻物のような絵画、古びた書物、そして見慣れない布地がのぞいていた。

「ありがとうございます。では、いただきます」

 パンをひとくちかじって、旅人はぽつりと話し始めた。

「そういえば……たしかこの森でしたな」

 リュミが顔を上げる。隣にいたエルドも、ぴくりと眉を動かした。