今度は窓がビリビリと震えた。
 外を見ると、一匹の魔物が体当たりをしている。
 白く、ふわふわの毛並み。どこかで見覚えがある──そう、森の中で出会った魔物だ。
 あんなことがあったし、リュミを追ってきたに違いない。

「……あ……」

 恐怖で心臓がどくんと跳ねる。
 だが、不思議なことに、魔物の目を思い出すと、不安よりも別の感情がわいてくる。

 やさしく、静かで、まるでなにかを伝えたがっていた。
 森の中で触れたときの、あたたかくてやわらかい毛の感触が蘇る。

「落ち着け。今は安全だ」

 突然声がして、リュミはびくりと体を震わせた。

 声のするほうを振り向けば、そこには深緑のローブをまとった男が立っている。
 背は高く、金色の瞳が静かに光る。
 耳の端はわずかにとがっていて、長い黒髪を三つ編みにして背中へ流している。

 一目で人間ではないとわかったけれど、不思議と怖いとは思わなかった。

(……だれ……?)

「君を森で見つけ、ここまで運んできたのはワシだ。もう大丈夫。結界で守っている」

 その口調は淡々としていて、落ち着いている。
 リュミはまだ頭がぼんやりしていたけれど、少し安心する。

 だが──。

 パリーンッ!