魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


 話を終えた龍は、静かに息を吐いた。
 すると、たくさんのふわふわが、リュミの周りを漂い始める。

 金色の光が龍の体へと吸い込まれ、黒い瘴気が少しずつ解けていく。
 龍の鱗がやわらかく光り、ひび割れたところから、小さな緑の芽がのぞいた。

「……ありがとう、ちいさきもの。おまえの光が、我の最後の痛みを溶かしてくれた」

「最後って、そんな……!」

「我はもう、限界だ。だが、恐れるな。この身が崩れても、命は森に還る。それが、理なのだ」

「そんなの……やだよ……!」

 リュミは小さな手を、必死に伸ばした。
 けれど、その手は……もう、龍に触れることができなかった。
 指の間から、光がこぼれていく。

 それでも、龍は微笑んでいた。
 その瞳には、悲しみではなく、やさしい光が宿っている。

「ありがとう。おまえの《ふわふわ》がある限り、この森はまだ大丈夫だ」

 光がやわらかく弾ける。
 まぶしさに目を閉じた瞬間、世界が反転した。

 リュミが再び目を開けたとき、そこは、焼け焦げた森の中だった。

 瘴気は、もうない。
 空気は澄み、焦げた土のあいだから、青く小さな芽が顔を出していた。

 リュミは、膝をついて泣いた。

「古龍さん……ありがとう……」