「むかし、この世界には瘴気など存在しなかった。だが、人が恐れを抱き、憎しみを積み、涙を流したとき、その心の澱が、世界に染み出した」
映し出された映像の中で、人と人とが争っていた。
怒鳴り合い、傷つけ合い、火が上がる。
そして、黒い霧のようなものが生まれ、地面を這いながら森を侵していく。
「それが、瘴気。人の心から生まれる、毒……」
リュミの目が大きく見開かれる。
「魔物はな、その毒を取り込む役目を与えられた……かつては聖なる存在だったものたちが、瘴気に触れ、姿を変えていったものなのだ」
「……え?」
「世界は、弱きものを護るために理を編む。瘴気をそのままにしていれば、森も、人も、滅びる。だからこそ、魔物と呼ばれたものたちは、自ら瘴気を食らい、静かに……それを抱え続けてきた」
龍の体の中に、黒い光が渦を巻いていた。
それは人の怒り、悲しみ、嫉妬、絶望。数え切れない負の感情が、龍の中に渦を巻いている。
「取り込めば、心は濁る。やがて形を失い、狂気に呑まれる。それでも……誰かが抱えねばならぬのだ」
その声は、深く震えていた。
リュミの胸が、きゅうっと痛くなる。
「じゃあ……古龍さんは……」
「世界が生きるために必要だった」
リュミの目に、涙があふれる。
あんなに恐ろしかったはずの姿が、今はこんなにも悲しく、やさしく見える。



