怖い。でも、立ち止まっていられない。
心の中に残っているのは、たったひとつの願いだけ。
「おねがい……《ふわふわ》……」
リュミは、そっと手を前に出した。
その小さな手のひらに、やさしい金色の光が膨らんでいく。
風に舞うような、あたたかな粒子たちが瘴気を押しのけ、空気を包み込む。
古龍の赤い瞳が、リュミの姿を静かに見下ろす。
(こわい……でも、もう逃げない)
その気持ちだけで、リュミは立っていた。
「リュミ! 逃げろっ!」
遠くから、エルドの叫ぶ声が聞こえる。
でも、リュミは首を横に振った。涙を拭い、まっすぐに前を見る。
「やだ。……リュミのせいだから。リュミが、やる」
その言葉に、もう迷いはなかった。
金の光が世界を包み込む。
それはあたたかくて、やさしくて、まるで春の森に差し込むこもれびのようだった。
「こっちを見ててね、古龍さん。もう……苦しくないように……リュミが《ふわふわ》してあげるから」
その言葉とともに、まばゆい光があふれ出し、世界をそっと照らし始めた――。



