「下がれッ!」

 エルドの怒声が響き、直後に全員が一斉に動き出した。

「リンコ、右から牽制だ! パッロ、風障壁を張れ!」

「了解ッ!」

「了解!」

 リンコの翼がひらりと舞い、そこから燃え上がるような赤い炎が放たれた。
 灼熱の風が瘴気を切り裂き、空に赤の軌跡を描く。

 パッロは大地に足を踏ん張り、深く息を吸い込むと、風の力を集めて障壁を作り出した。
 その風が、リュミたちの周囲にやさしく、けれど強く渦を巻く。

「リュミ、ここを離れるな!」

「う、うん!」

 だが、その守りさえも、古龍のひと息に抗えるかはわからなかった。
 瘴気の並がぶつかるたび、空気が歪み、風の膜がギシギシと不穏な音を立てる。

「く……! 押し返せない……!」

「パッロ、無理するんじゃないわよ!」

 リンコが叫び、もう一度燃えるような炎を放つ。
 だが、それすらも瘴気に呑まれ、煙のように消えていく。

 そして――古龍の翼が、わずかに動いた。
 ただそれだけで、風が弾丸のように走り、パッロの風障壁が一瞬で砕け散る。