「……ああ、古龍だ。あまりにも長く生きすぎて、自然の理から外れてしまった存在……。本来なら、命を終えて森に還るはずだったが……瘴気がそれを許さなかった」

 エルドの目は静かに怒りをたたえながらも、どこか悲しげだった。
 その声には、深い哀しみと、どうにもならない無力感がにじんでいる。

 次の瞬間、古龍がゆっくりと息を吐いた。

 それだけで、空気がびりびりと震える。
 風が逆巻き、世界そのものが軋むような音がする。

 リュミは、思わず手をぎゅっと握りしめた。

「エルドさん……たすけられる、かな……?」

 リュミの問いに、エルドは眉をひそめた。
 瞳が険しさを増す。

「助ける……? 瘴気に呑まれた古龍をか……? 今の状態では、無理だ。やれるものなら、誰かがとっくにやっている」

 厳しい言葉だった。けれど、それは真実。
 それでも――リュミの心には、まだ諦めきれない希望が残っていた。

「でも、《ふわふわ》なら、届くかも」

 その言葉と同時に、リュミの手のひらに、やわらかな光が生まれた。
 春風に乗って舞う羽のような、ふわっとしたやさしい光。

 けれど、その小さな希望を打ち消すように、地面が突然、轟音とともに割れた。

 瘴気が荒れ狂うように渦を巻き、黒い津波となってリュミたちを呑みこもうとする。
 古龍の目が開いた。深紅に濁った双眸が、リュミたちを射抜くように見下ろす。