もう一度、ぎゅっと拳を握りしめる。
深く息を吸って、リュミは一歩、また一歩と歩き出す。
足元のぬかるんだ地面が、ぬるりとやわらかく沈んだ。
その姿を見たパッロが、ちらりと横目で見て、にっと笑う。
牙を見せたその笑顔は、やさしくて、どこか誇らしげだった。
「いい目をしている」
短いその一言が、胸にしっかりと届く。
リンコも空中でくるりと旋回しながら、リュミに声を投げかけた。
「まったく、あんたってときどき妙に肝が据わっているのよね……まぁ、それでこそわたしたちのリュミって感じだけど!」
リンコの炎の翼が、少しだけ明るさを取り戻す。
ムスティはリュミの肩にぴたりと寄り添い、なにも言わずに目を閉じている。
でも、その震えはさっきより少しだけ落ち着いている気がした。
森は、変わらず不気味な沈黙に包まれている。
でも、リュミたちは確実に進んでいる。静かで、けれど強い覚悟を胸に。
《ふわふわ》は届くのか。
それとも、なにもできずに呑み込まれてしまうのか。
それは、まだわからない。
でも、リュミはもう迷わない。
目指すのは、森の最奥――古龍のもとへ。



