その瞬間、リュミの背中に冷たいものが走る。
 まだその姿は見えていない。けれど、たしかにそこにいる。
 姿が見えなくても、体のすべてが理解してしまう。

 胸がぎゅうっとつぶれて、心臓が耳の奥でどくんどくんと暴れ始めた。
 手足の先まで冷たくしびれ、全身が硬直する。

「っ……なんか、ビリビリする……」

 思わず声が漏れた。体が勝手に震えて、呼吸が浅く速くなる。

「まだ遠い。だが、近づいているのはたしかだ」

 エルドはそのまま歩みを止めず、落ち着いた声で言った。その背中は揺るがない。
 けれど、リュミにはわかる。恐怖で足が竦むのは自分だけではないのだ、と。

(エルドさんでも、こわいんだ……)

 心の奥底で叫ぶ声がある。
 逃げたい。怖い。見たくない。触れたくない。

 でも――ここで立ち止まれば、自分の役目はなくなってしまう。
 ただ守られて、怯えて、なにもできない自分にはなりたくない。

(リュミは……自分で行くって、決めたんだもん)

 そんな自分でいたくない。
 誰かに守られるだけの存在じゃなくて、誰かを支えられる存在でいたい。
 たとえ怖くても、手が震えていても、前に進むと決めたのだから。

(行かなくちゃ……リュミは、行くって決めたんだから)