すぐ隣を歩いていたパッロが、ふと声をかけてくる。
 振り返ったその瞳はあたたかく、やさしさを帯びている。

「怖ければ……オレに任せればいい」

 リュミは、すぐに首を振った。小さく、けれどはっきりと。

「ううん、だいじょうぶ。リュミも、いっしょに行く」

 口にしたその言葉に、自分でも少し驚くくらい、声はしっかりしていた。

 リンコがちらりと横目で見て、「生意気なんだから……」と小さくつぶやいた。
 でもその声には、ほんの少しだけ、ホッとしたような響きが混じっている。

 瘴気はさらに濃く、重たくなっていく。
 目の前には黒いもやが、幾重にも重なって漂い、まるで行く手を遮る壁のように見えていた。
 その向こうになにがあるのか、考えただけで喉がぎゅっと詰まるような気がする。

 ずうん。

 地の底から響くような、重く低いうなりが足元から突き上げてきた。
 森の木々がその音に震え、幹に張りついていたの苔が細かく揺れ動く。
 頭上の枝葉がざわめき、そこからこぼれた灰色の光が、ぼんやりと森に降り注いだ。

 瘴気の流れが変わった。
 うねるように流れを変え、森のもっと奥へと引き寄せられている。

「……古龍だ」

 エルドの声が、地鳴りに重なるように低く響いた。