「強がるなよ」

 前を歩いていたパッロが、振り返らずにそう言った。
 その声は冷たくもなく、怒ってもいない。ただ、同じ恐怖を共有する仲間としての、やさしくてまっすぐな警告だった。

「オレだって……本当は毛が全部逆立ちそうなんだ。本能が、危険を知らせてる」

「それ、ただの静電気じゃないの?」

「違う!」

 パッロの即答に、リュミの口元が自然とほころぶ。

「ふふっ……」

 小さな笑い声が、重たく張り詰めていた空気に小さなひびを入れた。
 それに気づいたのか、パッロとリンコもわずかに口元をほころばせる。

 怖くても、こうしてみんながいてくれる。
 リュミは胸の前で、ぎゅっと手を組んだ。

 (リュミが、しっかりしなきゃ。エルドさんも、パッロも、リンコも、ムスティも……こわいのは、みんな同じなんだから)

 本当は、足が竦むくらい怖かった。今すぐ立ち止まって、その場で丸くなってしまいたい。
 でも、止まったら、きっともう立ち上がれない。瘴気に呑まれて、心も体も真っ黒に染まってしまう――そんな気がしてならない。

(リュミ……逃げない。絶対に)

 そう心の中で誓い、リュミは小さな拳をぎゅっと握った。ふるふると震えていた足に、ゆっくりと力を込める。
 乾いた落ち葉がカサリと鳴った。

「リュミ」