魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


 でも、その姿はあまりにも痛ましい。
 まるで見境なく暴れ回り、自分自身を傷つけてしまったかのような惨状。
 片方の角は途中で折れ、体中には深くて長い傷が無数に刻まれている。血と泥がぐちゃぐちゃに混ざり、毛並みは黒ずんで固まり、もとの色すらわからない。

「ひどい……っ」

 リュミは思わず手で口を押さえた。

 シカはかすかに胸を上下させながら、生きていた。
 けれど、その目はもうなにも見えていなかった。白く濁り、まるで視界のすべてが霧に覆われているかのように、焦点がどこにも合っていない。

「……瘴気にあてられたんだな」

 エルドが後ろから近づき、低く重々しい声で告げる。

「ま、まだ息があるよ! 助けられる……きっと、リュミの《ふわふわ》で……」

 リュミはシカのそばに膝をつくと、両手をそっと伸ばした。
 自分の手が小刻みに震えていることに、気づいていない。

(だいじょうぶ……きっと、だいじょうぶ……ふわふわにすれば、いたいの、なくなる……)

「《ふわふわ》になぁれ!」

 リュミの手のひらから、ふわりとあたたかな光があふれる。
 春のひだまりみたいに、やさしくて、ぬくもりがあって、包み込むような光。まるでリュミの気持ちそのものが、光になったよう。

 けれど――シカはふわふわにはならなかった。
 その代わり、シカの体がぴくりと痙攣し、目を見開いたまま、苦しそうに喉を鳴らす。
 掠れたうめき声は止まらず、逆にもっと苦しそうになっていくように思えた。