ただ強くなるだけじゃない。
 魂の一部をなにか黒いものに染めながら、静かに、確実に――壊れていく。
 それが力の代償だとするなら、そんなものに頼ってまで強くなるなんて、リュミには到底できそうにない。

 どこか遠くで、誰かが泣いているような気がした。
 それが、まだ見ぬ古龍の声のように思えて、胸の奥がじくじくと痛む。
 その痛みから目を逸らすように、リュミは口を開いた。

「ねえ……古龍さんって、たくさんあばれちゃうくらい、つらいのかな……?」

 ぽつりと漏れたその声に、しばらく誰も返事をしなかった。
 重たい沈黙が数歩分、森の中を流れる。
 瘴気の濃さと足音の乾いた響きだけが、耳に残る。

 やがて、小さな声がリュミの隣から聞こえた。

「……苦しいから、じっとしていられないんだ」

 その一言が、鋭く胸に突き刺さる。
 どうしようもなく苦しくて、誰にも助けを求められなくて、だからこそ、ただ暴れるしかないなんて……。

(それなら、せめて……)

 苦しいならせめて、早く《ふわふわ》で楽にしてあげたい。

 そう思った瞬間だった。

 先頭を歩いていたパッロが、ぴたりと動きを止めた。
 毛を大きく逆立て、尻尾を膨らませ、耳をピンと立てて、森の奥を鋭く見据えている。