エルドがぽつりとつぶやく。
 その声には、驚きというよりも、深い警戒と焦りの色が濃い。

「……このあたりで、これほど濃いのは初めてだ」

(こい……?)

 リュミは思わず問いかけた。

「こいって、なにが……?」

 その答えは、ほんの少しの間を置いて返ってきた。

「瘴気だ」

「しょうき……」

 声に出しただけで、口の中に苦みが広がるような気がした。
 空気が重たく、体の芯までじっとりと濁っていくような感覚。それが、瘴気――。

「古龍の最期が近い証拠だ」

 エルドの声は静かで、でも深く重たい。
 その響きが、リュミの胸の奥へゆっくりと沈み込んでいく。まるで、重たい石を呑み込んだような感覚だった。

 歩を進めるたび、空気はさらに濁りを増し、どろりとした目に見えないなにかが、肺の中へと入り込んでくる。
 呼吸をするたびに肺がザラザラとして、喉がかすかに焼ける。

(これが……瘴気。こんなものを食べて、魔物は強くなるの?)

 そう思った途端、ぞくりと背中に寒気が走った。
 まるで、自分の命を少しずつ削ってでも力を手に入れるような、そんな、恐ろしいものに思える。