先頭を歩くパッロは、毛を逆立て、喉の奥で低くうなっている。
 リンコはリュミの頭の上にちょこんと乗ったまま、何度も振り返っては落ち着きなくそわそわしている。
 ムスティもまた、なにも言わないまま、きょろきょろと目だけを忙しく動かしていた。

「……なんか、いやな感じだね」

 思わず口から漏れたリュミの言葉に、リンコがすかさず反応する。

「なんか、じゃないでしょ。ここまで静かだと、異常なのは明らかだわ」

「で、でも……まだなにも出てないし……」

「出てないからこそ怖いのよ」

 リンコの言葉が胸にずしんと響く。
 少しでも気を抜いたら心のどこかが崩れてしまいそうで、リュミは慌てて唇をきゅっと()んだ。

「怖いなら戻るか?」

 不意に前から聞こえたのは、エルドの声。
 リュミはびくりと肩を震わせたけれど、すぐに頭を振った。

「……行く。リュミがやるって決めたんだもん」

 きっぱりと言い切ると、リンコが少し目を丸くした。
 そしてほんの一瞬のあと、小さく頷く。

 森の奥へと足を進めるにつれて、空気が明らかに変わっていくのが感じられた。
 木々の幹には、いつの間にか黒ずんだ苔がじわじわと広がり、枝の先端はひび割れたまま乾ききり、ぼろぼろと崩れて地面に落ちている。
 足元の落ち葉もしっとりとしたやわらかさを失っていて、まるで乾いた粉を踏みしめているような音が鳴る。

「たったひと晩で、ここまで変わるとはな……」