「うん。でも、ひとりじゃないもん」

 リュミは、少し笑って見せながらそう答えた。
 それは自分に言い聞かせるような、心細さを隠すための言葉。

 リンコはぷいっと顔を背けながらも、少しだけ強気な声で言う。

「そ、そうよ。リュミをひとりで行かせるほど無責任じゃないわ」

 その言葉には、どこか無理をしているような響きがあった。
 リンコの体は、かすかに震えている。

 ふだんは勝気なリンコが、今は精一杯、気丈に振る舞おうとしている。
 そんなリンコの姿が、リュミの胸にじんとしみた。

 外に出ると、待っていたエルドと目が合った。
 視線が合うと、彼はなにも言わずに小さく頷き、それから森のほうをじっと見つめる。
 ただそれだけのしぐさなのに、どこか頼もしく見えて――でもなぜか、今日はとても遠い存在のように感じた。

「……行こう」

 低く落ち着いたその声に背中を押されて、リュミは一歩、前に足を踏み出した。

 森の奥へと入っていく――それだけのはずなのに、けれど、今朝の空気は昨日までとどこか違っていた。

 いつもの道、見慣れた木々たち。
 それなのに、今日の森は、まるで別の世界に続いているかのような、不思議で不気味な気配をまとっている。

 空気はどこか重たく湿っていて、風すらも動かない。
 音という音がすべて吸い込まれて、どこか遠くへ消えてしまったような静けさ。
 この森が、本当にあの穏やかな森と同じ場所なのだろうかと、思わず疑ってしまう。