ちゃんと、わかってる。
 それでも――。

 リュミはぎゅっと自分の手を握りしめた。怖さも不安も、全部その手の中に押し込むように。

「それでも……黙って見ているなんて、リュミにはできないよ」

 そのとき、パッロが鼻先をぐっとリュミの手に押しつけてきた。まるで、行けと言っているみたいに。
 まっすぐなまなざしは、リュミに信頼を寄せているように見える。

 エルドはしばらく黙っていた。長く、深く、その言葉を胸に染みこませるように。
 そして、ようやくふっと肩の力を抜いて、微笑んだ。

「おまえは……どうして、そんなにまっすぐでいられるんだ」

「だって、苦しんでるのに、見て見ぬふりなんて、できないもん」

 その言葉には、強さと儚さが入り混じっていた。
 揺れる炎の向こうで、エルドの瞳が細められる。
 その瞳には、諦めにも似た決意と、どこか切ないやさしさが宿っている。

「わかった。……明日、古龍のもとへ行こう」

 その言葉がリュミの胸に届いた瞬間、じんと熱くなった。
 怖さと、勇気と、祈りと――いろんな気持ちが渦を巻いて、喉が詰まりそうになる。

 外の夜空では、星々が静かに瞬いている。
 それはまるで、リュミたちがこれから進む道を、遠くからやさしく照らしているかのようだった。