リュミは小さく目を見開く。

「毒なの?」

「そうだ。たとえば、菓子を食べ過ぎると腹をこわす。それと同じことだ。瘴気も摂りすぎれば、体をこわす。どんなに強い魔物であってもな。古龍ほどの存在なら、その許容量も桁違いだが……限界はある。限界を越えて溜め込んだ瘴気は、いずれ内側から身を裂く」

 炎がふっと大きく揺れ、その光がエルドの瞳に影を落とす。

「今、あの古龍は、蓄えすぎた毒に焼かれている。苦しんで、のたうち回って、それでも生きている。……それを知っていながら、ワシには、なにもできなかった」

 エルドの肩が、静かに震えている。

 リュミはその横顔をじっと見つめた。
 いつもは大きくて、頼もしく見えるその背中が、今は少し遠く、小さく沈んで見える。
 その背中に宿る痛みはあまりに深くて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

 だから、自然と言葉がこぼれ出た。

「だいじょうぶだよ、エルドさん。リュミがいるもん。リュミの《ふわふわ》、ちゃんと届けるよ」

 ぱち、と大きく薪がはぜた音がして、その瞬間、全員の視線がリュミへと向く。
 リュミは少し息を吸い込んで、続けた。

「パッロも、リンコも、ムスティも、みんなリュミの《ふわふわ》で落ち着いてくれた。だから……古龍さんにだって、きっと、少しは届くと思う」

 リンコが、かすかに目を細めながら静かに言った。

「でも、相手は世界の理みたいな存在よ? ただ近づくだけでも命を落としかねない……簡単なことじゃないわ」