魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


「古龍に近づくこと、それ自体が命懸けだからな」

 静寂の中、ぱちんと音を立てて暖炉の薪がはぜた。
 その一瞬の音が、まるで言葉を切り裂くように空気を震わせる。

 それはささやかな、けれどたしかな日常の音。
 そのぬくもりに包まれた空間を壊してしまいたくないという、矛盾した思いがリュミの横顔に影を落とす。

 リュミの瞳には迷いがあった。
 戦うと決めた自分の中に、守りたいものがあるという事実が、わずかに歩みを鈍らせる。
 だが、それでも――引くことはできない。

 そのとき、不意にやわらかな気配を感じた。
 パッロがふわふわの尻尾で、リュミの背をぽんと軽く叩いたのだ。

「リュミは前を見ていればいい」

 その声は力強く、まっすぐだ。

「守るのはオレたちの役目だ」

「……うん」

 リュミは小さく頷いた。
 その瞳に浮かぶのは、不安と、それを超えようとする意志。

 あるべき答えを見つけたかのように、心の奥に小さな火が灯る。
 それはまだ頼りない、風に揺れる炎。けれどたしかに、リュミの胸の中で、新たな決意が生まれつつあった。