魔物の森の癒やし姫~役立たずスキル《ふわふわ》でちびっこ令嬢はモテモテです~


「すごい……服まで作れちゃうんだ」

 リュミが声をかけると、ムスティはちらりとこちらを見て、静かに頷いた。
 そして、手元の糸をきゅっと結ぶ。

「器用なものだな。オレの爪じゃこうはいかない」

 パッロが感心したように鼻を鳴らす。

「ありがとう、ムスティ」

 リュミの言葉に、ムスティはほんの少し照れくさそうに顔を背けると、するすると天井の梁へのぼっていった。

 *

 日が落ちるころ。
 静けさの漂う土間の中央には、数え切れないほどの薬や道具が整然と並べられていた。
 薬包み、風雨に耐えられるよう補強された革製の袋、手入れの行き届いた刃物に、太さの異なる数本のロープ。そして、光を放つ簡易ランタン――。
 それらをひとつひとつ確かめるように目を走らせながら、エルドが息を吐いた。

「よし……最低限は整ったな」

 低く発せられたその声には、わずかながら安堵の色がにじんでいた。
 ようやく出発の目処が立ったという実感が、肩の力を少しだけ抜かせたのだろう。

 だがその直後、エルドの瞳はふと遠くへと向けられる。
 その視線の先には、まだ見ぬ脅威――古龍の存在があった。

「だが……本当の問題はこれからだ」

 独り言のように、しかし誰かに伝えるような声音で続ける。