パッロは窓際に回り込み、前脚で器用に根を掴むと、爪を使ってばきばきと砕き始めた。
 爪は大きいが力加減が絶妙で、リュミが驚くほど正確に作業をこなしていく。

「……これくらいでいいかな。リュミ、粉が舞うから顔を近づけるなよ」

「うん!」

「……それじゃあ粗過ぎよ」

 鋭い指摘とともに、背後からリンコが音もなく舞い降りる。
 彼女は羽を軽く一振り。ひゅう、と部屋の空気が揺れ、砕かれた根がふわりと宙に舞うと、そのまま細かく砕けていき、まるで粉雪のように木皿へと降り注いだ。

「分量を間違えないでよね」

 リンコは澄ました顔でそう言い、木皿をそっとリュミのほうへ押しやる。
 調合に必要な計量器も、すでに机の片隅に並べられている。

「……先生は相変わらず厳しいな」

「なっ……!」

 すかさずリンコが羽をばさっと広げ、ムッとする。

「ほらな、すぐ図星をつかれてムキになる」

 パッロがふっと鼻を鳴らして肩を竦めると、リンコは顔を逸らして「うるさい」とつぶやいた。。

「もう……ケンカしないでよ」

 リュミは笑いながら乳鉢の前に座り込み、深く息を整えた。
 気持ちを切り替え、作業に集中する。