エルドはやれやれと肩を竦めて、どこか呆れたように、それでもどこかうれしそうに、ため息交じりに微笑んだ。

「なら、来い。おまえにやってもらいたい作業がある」

「うんっ!」

 リュミは力強く頷き、エルドのあとをついていく。
 案内されたのは、エルドの私室――日頃から研究に使っている、薬と知識に満ちた空間だった。

 扉を開けると、薬草のにおいと、インクと羊皮紙の香りが入り混じって漂ってくる。
 部屋の壁にはびっしりと本棚が並び、その中には分厚い書物や巻物、ラベルの貼られた薬瓶が整然と収められている。

 木製の作業机には、すでに薬の材料と道具類が並べられており、使う人の導線まで計算されているよう。
 天井からは乾燥中の薬草の束が吊されており、部屋全体に静かな空気が張り詰めている。

 エルドは机の前に立つと、短く言った。

「まずは薬だ」

 薬草の束を指差す。

「森の奥では傷ひとつが命取りになる。今のうちに使える分を仕込んでおけ」

「わかった!」

 リュミは椅子に腰を下ろし、机の上に両手を置いて気合いを入れる。
 広げられた薬草の中には見たことのない種類もあって、自然と背筋が伸びた。

「パッロ、この根っこ、砕いて!」

「あぁ、任せておけ」