「……空気、重い。瘴気が……多すぎる。吸いすぎると……倒れる」

 その言葉に、リュミの背筋がぴんと伸びる。
 肌にぞわぞわっと鳥肌が立ち、心の奥に冷たいものが流れ込んだような気がした。

 魔物であるムスティの感覚は、人間よりもはるかに鋭い。
 だからこそ、彼の言葉には重みがある。

 リンコはふっと息を吐き、羽をばさりと広げた。

「だから、あのとき言ったじゃない。無茶だって」

 そう言いつつも、リンコの瞳はどこか心配そうに、ちらちらとリュミのほうを見ている。

 パッロは静かに腰を下ろし、尻尾を床にとん、と軽く打ちつけながら、リュミに体を向けた。
 その目はまっすぐで、やわらかく、少しだけ微笑んでいる。

「怖いって思うなら、無理して行くことはないんだぞ。リュミの代わりに、オレがどうにかするから」

 大きな体を少しだけ低くして、パッロはそっと頭を下げるようにしてリュミと目線を合わせてくる。

「でも、もし……それでも行くって決めたのなら、心配はいらない。オレが、絶対に守るから」

 その言葉は重すぎず、軽すぎず――まるで暖炉の火のように、やさしくリュミの胸をあたためてくれる。

「パッロ……ありがとう」

 リュミは、自然とそう返していた。
 特別な言葉じゃなかったけれど、今のリュミの気持ちを表すのにぴったりだった。

「じゃあ、リュミもやれることをやる!」

 気づけば、リュミは小さな手をぎゅっと握っていた。
 決意が言葉となって、空気に響く。