苦しんでいる命を見過ごすことなんてできない。
 助けられる可能性があるなら、それにすがりたい。

 リュミだって、本当はわかっている。
 助けたいという気持ちだけでは、どうにもならないこともある。

 やさしさだけじゃ、誰も救えないことも。
 自分が小さくて、弱くて、たいしたことなんてできないことも。

 六歳の自分では、大人みたいに戦えないし、うまい言葉で誰かを説得することもできない。
 《ふわふわ》だって完璧じゃない。失敗することもあるし、思ったようにいかないことだってある。

 リュミが逆の立場なら、止めたくなるかもしれない。

(それでも、手を伸ばさずにはいられないよ……)

 愚かでも、無謀でも。

 だって――目の前で誰かが苦しんでいる。悲しそうにしている。痛みを抱えている。
 そのことに気づいてしまったのに、なにもしないでいるなんて、リュミにはできない。

(なにもできなかったとしても、そばにいてあげたい。ひとりじゃないよって、伝えてあげたいよ)

 あふれてくるこの気持ちを、どうしてもなかったことにはできない。

 エルドの視線が、重く、深くリュミを見つめる。
 そのまなざしには、言葉にできない感情がいくつも重なっていた。怒り、諦め、そして……ほんの少しの、希望。

「……危険すぎる。だが……」

 その言葉は、宙に浮いたまま途切れた。

 暖炉の火がふっと揺らぐ。赤い火の粉が舞い上がり、静かに消えていく。
 まるで、この家の中だけが世界から切り離された空間になったかのようだった。