「こらっ、落ちるぞ!」

「うるさいわね! わたしはプロなの!」

 そう言って器用に脚でスプーンを掴むと、ちょんと空くってすくって啄む。

「んっ、ちょっと塩が足りないわね」

「鳥に味なんてわかるのか?」

「当然でしょ。もっとわたしを頼りなさい!」

「なんでおまえが一番えらそうなんだ……」

 そのやりとりに、リュミとムスティは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
 にぎやかで、あたたかい時間が流れる――そのときだった。

 玄関の扉がギィッと音を立てて開き、ひんやりとした外の風が吹き込んでくる。

「ただいま──」

 低く落ち着いた声。その主は、もちろんエルドだった。
 全員が動きを止め、彼のほうを向く。

「……これはなんだ」

 エルドの目の前に広がるのは、散らかったキッチンと鍋から立ち上る香り。床には肉片や野菜の切れ端が転がり、まるで戦場のような光景だった。

「え、えっと……スープを……」

 リュミがもじもじと答えると、エルドは深いため息をひとつ吐いた。
 けれど、鍋の中をのぞいた瞬間――その表情がほんのわずかに和らぐ。