リュミが振り返ると、天井から糸で吊るされるようにして、ムスティが静かに現れた。

「できるの?」

 ムスティはこくんと無言で頷くと、糸のようなものをすっとニンジンに巻きつけ、そのままスパンッと切断する。
 均一に切りそろえられたニンジンたちがカッティングボードに並ぶ。見れば見るほど、その正確さに感嘆する。

「す、すごい! リュミより上手!」

「……それほどでも」

 ムスティは小さくつぶやきながら、淡々と作業を続ける。
 器用に糸を操る様子はまるで魔法のようで、思わず見入ってしまう。

(ムスティの糸って、なんでもできるんだ……本当にすごい……)

 その姿に励まされて、リュミの胸にもふつふつとやる気が湧いてくる。

(リュミもがんばらなきゃ!)

 すぐ近くに転がっていたタマネギを手に取り、皮をペリペリと剥いていく。
 途中で目がしみて涙がこぼれそうになったり、剥きすぎてしまったりと、小さな失敗は重ねたけれど、それでも少しずつ料理は進んでいく。

 やがて――。
 鍋の中で、肉と野菜が仲良くグツグツと煮えはじめた。

 野菜と肉の香りがふわりと立ち上り、部屋全体にやさしい香りが広がっていく。
 木べらでゆっくりと鍋をかき混ぜると、コトコトという音が心地良く響いた。

「よーし、味見しましょ!」

 リンコが元気よく飛び立ち、鍋のふちに軽やかにとまる。