その夜。
 リュミはひとりベッドの上に腰掛けながら、胸にそっと両手を当てていた。

 叱られたときのエルドの声。
 肩を掴まれたときの強さ。
 頭に置かれた手のぬくもり。
 そして、「ワシがそばにいる」という言葉――。

(……なんだろう、この感じ)

 妙に落ち着かない。
 怖かったはずなのに、不思議と安心している。
 胸の奥が、じんわりと満たされていく。

(叱られるの、イヤじゃなかった……)

 それどころか、うれしかった。
 だって――叱るほど近い存在だなんて、思ってもみなかったから。
 どうでもいい存在に、本気で怒る人なんて、いない。

 思わず、枕に顔をうずめて、ジタバタと転がる。
 リンコとパッロがいなくてよかった。こんな姿、見られたらなにを言われるかわからない。

 でも。
 エルドの言葉が、繰り返し頭の中で響く。

「……ひとりじゃない、か」

 ぽつりとつぶやいた声は、夜の静けさに溶けて、そっと消えていった。